- 大垣中央新工場立ち上げプロジェクト -
独自装置を満載した新工場で、世界の半導体需要に応えていく

H.Dさん(写真左)プロフィール

入社年:2005年
部 署:生産技術統括部 新工場立ち上げプロジェクト

大学では電気電子システムを専攻。イビデン入社後はDPFの生産設備開発と立ち上げに関わる。その後電子事業に移り、2009年には海外赴任を経験。2016年に発足した内製化チームに参加し、競争力の有る差別化を推進する。2018年にはそれと並行する形で新工場立ち上げプロジェクトにもアサインされた。

S.Mさん(写真右)プロフィール

入社年:2017年
部 署:生産技術統括部 新工場立ち上げプロジェクト

前職は生産設備メーカーで、さまざまな業種で使われる設備機械の開発に取り組む。その後自らの知見をさらに広げるべく、2017年イビデンに転職。現在はH.Dさん(マネジャー)のもと、生産設備の内製化や新工場で使われる生産設備の開発に取り組むなど、前職で培ったスキルと知見を活かして働いている。

世界的な需要増に応える新工場立ち上げプロジェクト

近年、空前の好況に沸いているのが半導体業界です。巣ごもり需要の増加や米中間の貿易摩擦など、複合的な要因から市場規模が急拡大。これらの半導体製品に欠かせないのがイビデンの高機能ICパッケージ基板で、積極的な設備投資を行うことで急激な需要増に対応しています。

そして2020年、イビデンの大垣中央事業場に新たな工場が誕生しました。この大垣中央新工場の立ち上げプロジェクトに設備担当として参加したのが、生産設備の専門家であるH.DさんとS.Mさんです。

H.D 独自の工法を搭載した生産設備を設計・製作し、技術をブラックボックス化することで競争力を高める。私がマネジャーを務めるこの「内製化チーム」は2016年に発足し、20名のメンバーとともに、そのまま新工場の設備開発と立ち上げを担当することになりました。

S.M 2018年のプロジェクト始動と同時に参加したのですが、当時の私は転職してきたばかり。生産設備メーカーで働いていたとはいえ、最初はどんな仕事が待ち受けているのかわからず不安でした。

異なる部門の200名ほどが垂直立ち上げに挑む

新工場のコンセプトは「クリーン」。超微細な基板づくりを高い歩留りで実現するため、異物に対して徹底的にシビアな生産ラインをつくろうという大号令のもと、100弱の生産ライン、数百台の生産設備を備える巨大工場の立ち上げがはじまりました。関わった技術者は200名ほどに上ります。

H.D この新工場以前は、上流工程から下流に向けて順々にバケツリレーのような形でラインを立ち上げていました。しかし、このやり方では効率的かつ高品質な工程づくりはできないと考え、今回は生産技術や製造部門、品質部門がひとつのプロジェクトに入って全員で立ち上げるという初の試みに挑みました。

S.M 最も大きい成果は、製造部門の方々が立ち上げから参加したことで、現場の声を反映した使いやすい生産設備をつくれたことですね。その他にも、ラインを立ち上げた後に改善が難しい部分も出てきますので、そうした知見を仕様の中にあらかじめ盛り込めるような組織になったことはよかったと思います。

極薄の基板にできるだけ触れることなく搬送せよ

しかし、彼らの前にはさまざまな壁が立ちはだかります。そのひとつが、かつてないクリーン度の実現です。

S.M 装置開発にあたり最初に言われたのが「できるだけ基板に触るな」ということ。基板に異物が付着するリスクを極力減らすためです。数十センチ角という大きさに対して、0コンマ数ミリという薄さですから、余計な負荷がかかれば基板が曲がったり割れたりしてしまいます。基板の四隅をそっと掴み、平衡を保ったまま次の工程へ移すという搬送ロボットのハンドリングにはとても苦労しました。

さらに今回は組織横断型のプロジェクトチームですから、我々の担当ではない設備を触るケースも出てきます。普段接する機会の少ない技術者の方々と、いかにスムーズに仕事を進めていくかという面にも配慮しました。

H.D 初めて見る装置の構造が分からず、なかなか触れられない技術者が多い中、S.Mは前職でさまざまな設備を触った経験があるので、飲み込みも調整も早かった。そこは非常に頼もしかったですね。

想定外の事態に緊急対策チームを立ち上げ

さらに不測の事態が襲います。当初流す予定のなかった、超薄型の基板も流せるように生産ラインの仕様を変更したいという相談が寄せられたのです。

H.D 当然、試験で確認していない製品を流せるかどうかわからないので、すべての工程で再検証が必要になります。そこで我々はプロジェクトチームの中に、もうひとつ超薄板を流すための緊急対策チームを立ち上げ、それぞれの持ち場と並行して対策に当たりました。実際にモノを流し、製品と一緒に歩いてひとつひとつの設備で検証を重ねていくという地道で泥臭い作業です。このチームにはS.Mにも入ってもらいました。

S.M 大変でしたね。ふたりで「どうします?」「こうしてみようか」なんて話しながら、突貫で作業にあたりました。その甲斐あってスケジュールに遅れることなく、量産移管へ辿り着くことができました。

H.D この時の話は、きっと10年後の飲み会でも出る気がするよね(笑)。

濃密な経験で技術者としての幅が広がった

プロジェクトチームが一丸となって取り組んだ結果、無事にお客様から量産認定を受けました。この新工場は2020年から量産を開始し、現在も稼働が続いています。

H.D 皆の頑張りの甲斐あって、「かつてないほどクリーンな工場」という目標は達成できました。しかし、量産後も想定外の不具合への対応や、当初2023年の稼動を予定していた河間(がま)新工場(*現在、2026年度に稼動予定)の立ち上げプロジェクトを進めていますので、喜んでいる時間はあまりなかったですね。

S.M 普通なら3年かけて覚える仕事を1年で身につけた、というほどの濃密さでした。技術者として急成長できたという実感があります。

H.D 苦労はしましたが、まだこの世にない装置をつくるという仕事はどれだけキャリアを積んでも面白いですね。皆でアイデアを出しあいながら、うまく動いた時は「おおーっ!」となりますから。さらに今回は部門の壁を越えて、全体を巻き込みながら成果を出せたことで、マネジャーとしても成長できたのかなとは思います。